理事長「歳時記」2025年秋

2025 年 10 月 31 日

猛暑日の長い夏を過ごしたことから、秋が来るのが待ち遠しかったです。

しかし、秋を迎えてから、急に寒くなっているのが実感です。

心とからだの準備が、まだできていません。こんな時には、秋を彩る

美しい花々を愛でれば心も穏やかになるでしょう。

現在気象庁の季節分けは、春は3月から5月、夏は6月から8月、秋は

9月から11月、冬は12月から2月と便宜上3カ月ごとになっており、

気温による定義づけはしていません。これだけ暑い夏が長く続くと、

季節の分け方も変わってくるかもしれません。

今回は、俳句ではなく短歌を紹介します。施術の「鍼(はり)」と

「秋の虫」を組み合わせ、夏の終わりを待ち焦がれたものがありました。

詠み人は長塚 節(1879-1915)です。1914年(大正3年)9月1日に

掲載されたものを紹介します。

正岡子規のもとで、万葉の短歌の研究に励みました。愛弟子として期待

されたのですが、師匠と同じ病の結核で36歳の若さで亡くなりました。

 

◎白銀の鍼打つごとききりぎりす幾夜はへなば涼しかるらむ

 

鍼灸師(しんきゅうし)が白銀(はくぎん)の鍼を打つ時のような音で、

キリギリスが鳴いていました。暑さもまだ厳しく、幾夜を経れば涼しく

なるのかを、待ち望んだ様子がでています。

キリギリスの鳴き声が、鍼を打たれたように感じる比喩歌でした。

作風は、映し出されるものを素直に表現する技法です。

病床のさなか、暑さに耐えがたい日々を過ごしていたのでしょう。

秋の訪れを虫に託した様子と鍼施術をよく理解していたことがわかります。

暑い夏から涼しい秋を待ち望むのは、昔も今も変わりません。

 

2025(令和7)年10月

一幡 良利(いちまん よしとし)

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