理事長「歳時記」2019年夏

2019 年 07 月 23 日

夏の土用は、冬春秋の土用に比べて季節感が際立っています。今年の夏土用の入りは7月20日、明けは8月7日です。一番暑い丑の日は7月27日となっています。

俳句の世界では、土用と言えば夏の季語として一般的です。この土用に据えるお灸と組み合わせた「土用灸(どようきゅう、どようきう)」なる用語も、夏の季語として入っています。

土用と灸を俳句の中に取り入れた巧みな句は多くあります。ここで紹介する句は、詠み人が小説家の夏目漱石のものです。漱石は、俳句も2,500句以上詠んでいました。俳句の添削は、いつも正岡子規が行っていたのです。子規とは大親友ですが、俳句の才は子規には到底及ばないと話していたのは、周知の事実です。「漱石」という名前も子規から譲り受けたもので、小説の世界に入ってからも「漱石」という名前を使い続けました。漱石が子規を尊敬し、心から愛した証拠です。この句は、鍼灸の世界としては興味深いものです。

○土用にして灸を据うべき頭痛あり

(どようにして きゅうをすうべき ずつうあり)

漱石の持病である胃痛は有名ですが、この句からは頭痛もちであったことも明らかです。夏の土用に据える灸を待つように、頭痛が出てくる様子を表現しています。当時はお灸で養生したことがわかります。1897(明治30)年、30歳の夏「漱石俳句集」に公表したものでした。ちなみに小説「吾輩は猫である」は38歳の作品です。

 

この俳句の情景から、対峙する短歌を創作してみました。参考までに。

○待ちわぶる暑き刺激の灸据え頭痛和らぎ澄ました顔に

(まちわぶる あつきしげきの やいとすえ ずつうやわらぎ すましたかおに)

2019(令和元)年7月

一幡 良利

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