通巻133号 編集後記

2017 年 10 月 26 日

編集後記

☆ 3月23日英国の科学誌ネイチャーは日本の論文数が過去5年間で8%減少し、日本の科学研究は失速していると発表しています。日本は長年に亘り世界の第一線で活躍してきました。ところが2001年以降、科学への研究費の投資が停滞し、高品質の研究を生みだす能力に悪影響を与えていると指摘しているのです。自然科学系の学術誌68誌に掲載された論文の著者がどこの国の出身で、どんな研究機関に所属しているかをまとめたものです。過去5年のデータベースでは中国が48%、英国が17%の伸びであったのですが、日本は8%、米国でも6%の減少がみられています。査読論文に至っては世界の国々では80%増加しているのですが、日本は14%しか増えていないようです。毎年ノーベル賞受賞者を出ていますが、これらは過去の遺産です。この20年間に、毎年大学への研究費の配分が削減していることが、研究成果の減少とも一致しています。文部科学省は、大学での若い研究者の待遇改善と有効な研究助成を考えないと、日本の研究レベルは最低水準になっていくでしょう。

 

☆ 4月1日で「障害者差別解消法」施行から1年が経過しています。この間の障害者の人へのアンケート調査では差別的な扱いを受けた人は30%を超えており、社会が良くなったと感じているのは20%という結果が出ています。障害のある人も、ない人も共に生きられる社会を目指すために作られた法律です。どうすれば、そういう社会になるのでしょうか。大切なのは思いやりでしょうか。

  東京渋谷Bunkamuraで開催(2月23日から4月16) された「これぞ暁斎」(これぞきょうさい)展では作品すべてが興味深いものでしたが、「盲人の書画鑑賞、囲碁」の1枚の絵の中にも注目がいきました。三人の視覚障害者の人が2人の絵師から講釈を受けて説明を聞いている様子が描かれていました。同じ絵の中には視覚障害者と囲碁名人が対局しているところを、2人視覚障害者と1人の晴眼者の取り巻きが、勝負の展開を見守っているほほえましい絵がありました。1871年(明治4年)~1889年(明治22年)に河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)により製作された作品でした。また、原宿にある太田記念美術館で開催(41日~5月18日)された「浮世絵動物図」展では「御奥乃弾初」(おおおくのひきぞめ)、の浮世絵に興味が惹かれました。全盲の検校が正月、琴の弾きぞめをしている絵で、中央に犬の狆(ちん)がいて、周りに姫、そして7人の女中と男の介助人が描かれているものです。検校の琴の音を聞いているのは女の人たち、そしてペットの狆の組み合わせが、おかしいのです。1849年(嘉永2年)~1852年(嘉永5年)に歌川国吉により製作されたものでした。これらの作品は江戸、明治時代には法律制定など無くても障害のある人も、ない人も、動物も共に生きる共生社会があったことが、優れた絵師からの残されたものでした。久々に感動した展覧会でよかったです。

 

☆ 4月に入り厚生労働省のホームページなどには「1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないよう」注意を促しています」。蜂蜜の中には細菌の中で最も強度な毒素を産生するボツリヌス菌が混入している危険性があるからです。消化管内の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が整っていない乳児に口から侵入すると容易に腸管内で増殖し、乳児ボツリヌス症になるからです。乳児ボツリヌス症は分かってからでも全国で36例報告がありますが、今までは死亡例はありませんでした。しかし今年の3月に東京都内の男児が死亡しました。生後5カ月からジュースに蜂蜜をいれて飲ませたようです。使用した蜂蜜の瓶のラベルには「1歳未満の乳児には与えないように」と注意書きがありましたが、家族の人たちは知らなかったようです。体に良いからあげていたようです。1,987年から厚労省ではこの通達を出しています。もちろん母子手帳にも注意書きがあり、乳児健診でも指導されています。最近、危険なのはインターネットのレシピ紹介サイトには離乳食に蜂蜜を使った調理例が多数掲載されていることです。家庭内の全ての人が、家での調理の加熱の温度ではボツリヌス菌は死なないことを知っておくことです。防ぐことは、蜂蜜並びに蜂蜜を使った食品を1歳未満の乳児には与えないようにすることしかありません。一歳以上になると腸内細菌叢も整ってきて、他の細菌類によって、ボツリヌス菌は増殖抑制されるので、乳児ボツリヌス症になることはないのです。代用離乳食品は幾種もあるので、それまで待っても遅くないのですが・・・。

 

☆ 5月14日江ノ島神社で恒例の杉山祭が開催されました。神奈川県鍼灸マッサージ師会の主催によります。518日が杉山和一検校の命日ですが、その前後に毎年開催されています。墓前祭、神前祭と懇親会が執り行われ50名以上の出席で、墓前では入りきれないくらい混雑した中で盛大に供養が行われました。いつも想いうかべるのが、杉山和一が詠んだとされる和歌の一遍です。歌の評価は月並調か、月並調でないかは別としても、伝承されるに相応しい句です。

 

◎よばばゆけ 呼ばずば見舞へ 怠らず 折ふしごとに おとづれをせよ

 

  鍼灸あん摩マッサージ師の求められる姿を詠んだものとしては評価されるでしょう。

本誌でも新子嘉規先生の「杉山和一検校と江戸の暮らし」を掲載していますので参照してください。

(一幡 良利)

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